国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は1988年に発足して以来、「化石燃料による人為的温暖化と自然災害増加の危機により、温室効果ガスCO2を排出する化石燃料の使用をなくすことが、人類の未来に向けての不可欠な行動である」ことを訴えています。
一方、IPCCの「人為的温暖化説」に当初から異議を唱えている科学者も多く、その人数も年々増加しています。そして、2019年には「世界気候宣言」が結成され、現在、ノーベル賞物理学賞の科学者を筆頭に、1500人の科学者が署名しています。彼らは「気候危機は存在しない」という声明を発表して、さらに「CO2を排出していない過去にも温暖化はあった」、「気温測定にはヒートアイランドによる都市バイアスがある」、「自然災害は増えてはいない」、「地球の気温に影響を及ぼす要因は太陽活動や宇宙線である」といった主張を発表しています。
主要各国政府の行動やマスメディアの報道を考えると、IPCCの報告「温室効果ガスCO2による気候危機」が世界の常識となっているようですが、実は、科学者の間では前述のような論争が起こっているのです。一体、科学的真実はどちらでしょうか。
本章では、前回に続き「世界気候宣言」の追加資料の報告と、本テーマ終了にあたっての「未来の地球科学」について考察をしたいと思います。
[人類の未来と気候変動(2)-1]世界気候宣言補足資料
<ヒートアイランド現象と都市バイアス>
次図はヒートアイランド現象すなわち都市バイアスのわかりやすいデータとして、東京都三宅島と東京都心部(現在の測定点は北の丸公園)の年平均気温の推移です。
三宅島と東京都心部の年平均気温の推移(気象庁のデータをNeoMagがグラフ化)
このグラフから、80年間で、三宅島では約0.7℃、東京都心部では約2.0℃の上昇となっていて、都市部のヒートアイランド現象とそれによる測定温度の都市バイアスは無視できないほどの大きさになっていることがわかります。
このような傾向は米国や英国でも同様な調査結果があり、特にUSCRN(U.S.Climate ReferenceNetwork)の資料では、NOAA(National Oceanic and Atmospheric Administration)が米国の田舎(無人地帯)114地点の月ごとの気温偏差を14年間測定した結果、平均気温はほとんど変わっていなかったというデータを公表しています。
以上のように、「世界気候宣言」は、「20世紀後半から地球が温暖化しているというIPCCのデータは、陸上の観測点や衛星による観測であり、ヒートアイランド現象の影響を除去できていません。」と主張しています。
<現代の温暖化は小氷期の戻り>
さらに、「温暖化の最大の原因が人間活動だというIPCC/AR6の結論は、実測データで証明されていません。実際は、最近の気温上昇は太陽活動や宇宙環境の変化による小氷河期と温暖期のサイクルの一環であって、1万年のスパンで考えれば、寒冷化の途中のわずかな戻りに過ぎないのかもしれません。」とも述べています。
完新世の北極圏の気温変化(Climate4you:NeoMag編集)
<地球史上最低レベルのCO2濃度>
「世界気候宣言」は、CO2濃度の変化がどれほど生物、人類に影響を与えるかも考察しています。
世界気候宣言が発表したデータではありませんが、わかりやすい例として、過去およそ6億年で大気中のCO2濃度がどう変わってきたかを、次のグラフで示しました。推定には、葉の化石に残る気孔の観察がよく使われます。葉の裏側に多い気孔は、光合成原料のCO2を取り込むほか、体の水分が外へ出ていく「蒸散」の経路にもなります。
私たちと同じく植物にも水の確保は死活問題ですから、気孔はできるだけ開きたくありません。大気中のCO2が濃いほど、CO2を取り込みやすくなるので、気孔の数や開口部の面積を減らせます。グラフのデータは、植物化石の気孔を調べた推定値です。むろん推定値にはかなりの誤差がありますが、今の濃度(約430ppm)よりだいぶ高かったのは間違いありません。
グラフから、古生代後期や新生代の寒冷化時には大気中のCO2濃度が急速に減少していることが分かります。しかしながら、生物の多くが絶滅した古生代の中期の寒冷化(オルドビス紀-シルル紀境界イベント)では、CO2濃度はそれらの時代よりはるかに高く、矛盾した結果となっています。このことは、太陽活動、銀河宇宙線等の他の要因も複雑に絡み合っている可能性を示唆しています。
6億年前からの二酸化炭素の濃度変遷
(総合講義「気候変動の科学」北海道大学)
このグラフのように、現在、大気中のCO2濃度は、地球史上ほとんど最低レベルになっているのです。もちろん、CO2は、現在の人間活動によって一時的に上昇していますが、やがて化石資源が枯渇すれば、低下に転じることになるはずです。このCO2濃度の低下が、生命活動に大きな問題を引き起こすかもしれません。
現在、ほとんどの生態系の活動を担っているのは、光合成生物による基礎生産です。光合成は、環境中のCO2を細胞内に取り込むことによって、CO2を固定する役目があります。したがって、CO2濃度の低下は植物の生育を妨げることになり、生物、人類の未来を暗くする恐れがあるのです。
裏を返せば、「CO2が増加すれば植物の生育が促進され、生物、人類の未来を明るくする」かもしれません。ノーベル物理学賞受賞者クラウザー博士は「CO2の増加は世界に利益をもたらす」とも言い切っています。
CO2の温室効果がどれほど地球の気候にかかわっているかは、現在の地球の「気候変動(?)」も含めて、本当は簡単に結論付けできない地球科学の難題の筈であり、CO2元凶説についても、IPCCの報告を鵜吞みにせず、さらに多くの科学議論があって良いはずです。
<世界気候宣言の結論>
「異常気象や災害が増えている証拠はありません。むしろ災害対策によって人的被害は減っており、費用対効果が高いのは、CO2を減らす緩和ではなく、災害を防ぐ適応です。これはIPCCも認め、AR6の第2作業部会のテーマは適応でした。日本政府も効果が不確実で莫大なコストのかかる脱炭素化より、熱帯の開発援助を優先すべきです。」と述べ、最終的に本報告は、「最善の気候変動対策は、世界が豊かになること」だと結論付けています。
[人類の未来と気候変動(2)-2]未来の地球の姿
<超大陸の形成>
地球内部は現在でも熱く、地球表面ではプレートが運動しています。そのため、数千万年~数億年という長い時問をかけると、大陸は移動し、現在とは大きく異なった海陸分布となります。今から2億5000万年前には超大陸「パンゲア」が形成されていました。
しかしその後パンゲアは分裂し、長い時問を経て現在のような海陸分布が形成されました。では今後、大陸の配置はどう変わっていくのでしょうか。
プレート運動がもし現在のまま続けば、アフリカ大陸やオーストラリア大陸が北上してユーラシア大陸と衝突します。さらに太平洋プレートの沈み込みのために太平洋が縮小して、ユーラシア大陸と北アメリカ大陸が衝突することが予想されます。その結果、今から約2億年~2億5千万年後には、北半球において新しい超大陸「バンゲア・ウルディマ」または「アメイジア」が形成されると考えられています。
現在の地球
5000万年後の地球
1億年後の地球
2億年後の地球
最近行われたマントル対流の数値シミュレーションによると、ハワイ諸島は約5000万年後までに日本列烏付近に近づき、約1億5000万年後までにはユーラシア大陸とオーストラリア大陸が衝突することで、日本列島は間にはさまれて超大陸の一部となる運命のようです。
一方で、南アメリカ大陸と南極大陸は、ほぼ現在の位置にとどまり続けるということです。ただし、まだよく分かっていないことも多いので、正確な予測とはいえません。
いずれにせよ、プレートテクトニクスが続く限り、海陸分布は時間とともに変化してゆくことになり、長い時間が経てば、世界地図は現在とはまったく変わります。大陸同士が衝突すれば、現在のヒマラヤ山脈のような大山脈がまた新たに形成されます。超大陸や火山脈の形成は、気候にも大きな影響を与え、植生の分布を変え、動物の生存競争は激化し、生物の進化や生態系の変化が促されるものと予想されます。地球自身の巨大な営力によって、地球表面はこれからもその姿を絶え間なく変え続けてゆくのです。
<プレートテクトニクスの停止>
今から14億5000万年後には地球の地殻変動が停止し、地震がなくなるかもしれません。地球の内部では地殻変動によって常にガスや物質が循環し、火山活動や地震も発生しています。しかし。科学誌「Gondwana Research」に掲載された論文によると、そのメカニズムがいずれ停止するようです。
プレートテクトニクスと地球内部の動き
中国地質大学の地質学者Qiuming Chengは、地球の歴史と数十億年の間のプレートの動きを研究して将来を予測しました。Chengが地球上の地殻変動の歴史を研究した結果、この30億年でマグマの活動や周期が低下しており、そこから地球内部の温度の低下率を計算しました。その結果、地殻変動が14億5000万年後にはなくなるという算出結果になりました。このデータは、地殻変動のない世界で何が起きるかを想定する根拠となり、他の惑星の研究に役立つ可能性もあります。
地殻変動がなくなると、地質学の観点から見た世界は今とは全く異なるものになります。まず、マントルが冷えて溶岩が地殻の下を移動できなくなるため、地震や噴火がなくなります。そしてプレートの動きが止まることにより、新大陸の形成や山脈の出現もなくなります。
それでも地表が変化するとすれば、それは侵食によるものになり、山が削られて海に流れ込む現象は続きます。標高の高い山も侵食されて丘になります。現在もそれは起きていますが、地殻変動がなくなれば、海には山の浸食で発生した堆積物が蓄積され続けます。その結果、海面が上昇します。山が低くなって海面が上昇すれば、多くの場所で洪水が発生します。その結果、世界の全てが水没してしまう可能性もあります。
<地球磁場の消滅>
さらに、プレートテクトニクスの停止により、低温のプレートが外核に落下しなくなり、外核の冷却力が低下して対流が止まります。したがって、地球磁場の供給元である外核の対流がなくなることにより、地球磁場は消滅します。地球磁場の消滅により地球は強い太陽風にさらされ続け、やがて、その大気を太陽風にはぎ取られ、世界を水没させていた海洋成分は宇宙へと散逸してゆきます。そして、地表に生息する大型多細胞生物は絶滅する運命になります。もちろん、それまで人類は手をこまねいている筈もなく、ほかの天体への脱出を完了させているかもしれません。
地球外核の中の対流
外核の対流で生まれる地球磁場
[人類の未来と気候変動(2)-3]科学としての正しい選択
過去の章でもお話をしましたように、生物誕生からの地球は様々な気候変動に見舞われてきました。しかし、生物が絶滅するような大きな気候変動は、すべて氷床が大きく発達するような寒冷化であり、灼熱地獄ではありませんでした。また、現在1万年前からは寒冷化の途中でもあり、「人類の未来は温暖化より寒冷化に備えるべき」かもしれません。したがって、「古代地球が残してくれた化石エネルギーを使わないこと」が、これからの人類にとって正しい方向かどうか、疑問が残ります。
再生可能エネルギーの活用は、“脱炭素ではなく、化石資源の枯渇への備え”という観点では今後も必要です。ただし、化石資源の枯渇についてははっきりした答えはありません、再生可能エネルギーの利用は、いまの延長上で100年、200年かけて、“科学の進歩”と“化石資源”とのバランスをみながら進めることの方が得策と思われます。“化石資源を使わないこと”に対して、大きな努力やコストを費やしたあげく、結局、それは人類にとってマイナスだったということだけは避けなければなりません。
「化石燃料による気候危機論」により、化石燃料の消費を削減してゆくことが、人類の未来を助けるのか、はたまた「気候危機は存在しない論」により世界が無駄なコストをかけ続けることを防いで、さらなる人類発展につなげるのか・・・・人類にとって正しい選択はどちらでしょうか?
IPCC、各国政府、環境活動家、マスメディア、大企業、果ては学校教育現場までがこぞって「地球温暖化の危機」を叫んでいる中で、これに対して「世界気候宣言」のような研究者グループが、“温暖化危機の疑問”をはっきりと訴え始めています。なぜか、マスメディアは「世界気候宣言」をほとんど取り上げていませんが、どういうわけでしょうか。少なくとも私たちは、逆風に立ち向かう彼らの主張も聞き逃さないようにしましょう。
「CO2による温暖化脅威論」から生まれた「再生可能エネルギー政策」や「脱炭素政策」が、人類、地球の未来に向けたものではなく、新しいビジネスへの参入争い、国家間の権力争い、国家間の格差助長などに利用されることのないよう願うばかりです。本テーマである「地球科学と生命の進化」にとって、何がより正解に近いのか、何をすることがより正しいのか、“世界の常識”とは別に、私たち自身もう一度、あらためて考えてみましょう。
[ 完 ]
以上、今月を含めて延べ22回にわたった本テーマ「地球科学と生命の誕生・進化」のお話は終了です。およそ46億年前に原始太陽が誕生し、続いて太陽の惑星として地球が誕生しました。そして、深海中で合成されたか、もしくは宇宙から隕石に乗って飛来したアミノ酸などにより生物が出現しました。その後、地球が幾多の環境変化を受ける中で動物が生まれ、数百万年前に人類が誕生したのです。幸いなことに、人類が誕生してから今日まで、地球は温暖な気候を維持してくれていました。ある意味、人類は幸運だったのかもしれません。
いま、人類は大いなる知恵を身に着け、科学を獲得しました。ただし、その科学の使い方を間違えると人類は滅亡の道をたどることになります。一方、地球は絶えず太陽や宇宙からの影響を受けています。たとえ“人為的要因”を排除したとしても、いつまでも人類にとって都合の良い地球環境になっているとは限りません。科学の力を正しく使い、地球環境と人類の未来にとって間違いのない舵取りをしたいものです。
なお、NeoMag通信では、過去2020年3月号~2021年6月号のテーマ「地球温暖化と温室効果ガスの検証」において、「温暖化脅威論」に対するさらに詳細な「疑問」を取り上げています。まだ、未読の方は、ホームページのバックナンバー欄に挙げていますので、ぜひお読みいただきたいと存じます。
<参考・引用資料>
◆Web
「USCRN(米国本土114地点)の平均気温」NOAA(National Oceanic and Atmospheric Administration)
https://www.ncei.noaa.gov/access/crn/
「今から14億5000万年後、世界は海に沈むかもしれない」Forbes 2018.08.25
https://forbesjapan.com/articles/detail/22643
「三宅島の年平均気温推移」気象庁ホームページ
https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/monthly_s3.php?prec_no=44&block_no=47677
「東京都の年平均気温推移」気象庁ホームページ
https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/monthly_s3.php?prec_no=44&block_no=47662
「IPCC第6次評価報告書(AR6)」気象庁ホームページ
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar6/index.html
「世界気候宣言“気候危機は存在しない”科学者1500人の声明」アゴラ 2023.07.19
https://agora-web.jp/archives/230719082758.htm
「THERE IS NO CLIMATE EMERGENCY」WORLD CLIMATE DECLARATION
https://clintel.org/world-climate-declaration/
「ノーベル賞受賞物理学者“気候変動は存在せず、自然変動でも大雨は増減”」ABEMA TIMES 2023.07.24
https://times.abema.tv/articles/-/10088703?page=1#goog_rewarded
「“地球温暖化防止”運動の暴走」IEEI(国際環境経済研究所)赤祖父俊一、田中博
https://ieei.or.jp/2020/06/opinion20060201/
「太陽系の銀河内軌道変化と地球の寒冷化」辻本拓司(国立天文台)ニュートリノ研究会 2021.01.07
https://www.lowbg.org/ugap/ws/sn2021/slides/802tsujimoto.pdf
「現在~未来の大陸分布」ブログ・古世界の住人
https://paleontology.sakura.ne.jp/
「綜合講義:気候変動の科学:第3回過去の気候変動」北海道大学 山中康裕
http://wwwoa.ees.hokudai.ac.jp/~galapen/datab/lec02/sougou/020513.pdf
「コアのダイナミクス」東京大学 地球惑星物理学科
https://www-old.eps.s.u-tokyo.ac.jp/epphys/solid/core.htm
「地球外核は二層に分かれて対流している?!」Spring-8 ホームページ
http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/research_highlights/no_65/
「地球温暖化と温室効果ガスの検証(1)~(16)」NeoMag 通信バックナンバー 2020.03.01~2021.06.01
https://www.neomag.jp/mailmagazines/topics/letter202003.html
◆書籍・文献
「The Frozen Climate Views of the IPCC: An Analysis of AR6」Marcel Crock, Andy May (著)
「不都合な真実 」アル・ゴア(著)、枝廣 淳子(訳)、 実業之日本社文庫
「46億年の地球史」 田近英一 著 発行元:三笠書房
「地球と生命の誕生と進化」 丸山茂徳 著 発行元:清水書院
「地球生命誕生の謎」ガルゴー他 著 発行元:西村書店
「地球・惑星・生命」日本地球惑星科学連合 編 発行元:東京大学出版会
「生物はなぜ誕生したのか」ピーターウォード、他 発行元:河出書房新社
「地球温暖化狂騒曲・社会を壊す空騒ぎ」渡辺 正(著)、丸善出版
「地球温暖化・CO2犯人説は世紀の大ウソ」丸山茂徳、戎崎俊一、川島博之ほか、宝島社