希土類磁石(ネオジム(ネオジウム)磁石、サマコバ磁石)、フェライト磁石、アルニコ磁石、など磁石マグネット製品の特注製作・在庫販売

■ 西暦1916年~1928年:磁性の源、スピン磁気モーメントと交換相互作用

1916年ドイツの物理学者アルベルト・アインシュタインとド・ハースは磁化の反転に応じて強磁性体が回転する現象、“磁気回転効果”を発見し、1925年アメリカの物理学者ジョージ・ユージン・ウーレンベックとサムエル・ハウトスミットはこの原因が電子の回転にあると考察し、電子が回転すると回転軸に沿って電流が流れることになり、電子自体が磁石になり得ると考え、“スピン磁気モーメント”という理論を発表したのです。このスピン磁気モーメントこそが、磁性の主な源であったわけです。

先のボーア等は、原子核を取り巻く電子の状態に、複数の電子の軌道、すなわち電子のエネルギー準位にK殻、L殻、M殻、N殻、O殻、・・・という名称を付け、また副殻としてs、p、d、f・・・という名称を与えていましたが、同1925年オーストリアのヴォルフガング・パウリはこれに主量子数、方位量子数、軌道磁気量子数、スピン磁気量子数という4つの量子数の考察を加え、さらに「1つの原子軌道に属する2つの電子は電子の量子状態を決める4つの量子数の全部を共通には持ちえない」という”パウリの排他律“を発表し、電子の配置を完成させました。

さらに同年、ドイツの物理学者フリードリッヒ・フントが実験による経験則“フントの法則”を発表しました。「原子の電子配置において、同じエネルギーの軌道に電子が配置する場合には,許される限りスピンを平行にして異なる軌道に入る」という規則です。

さらに1928年ドイツのヴェルナー・カール・ハイゼンベルクは論文を発表し、ワイスの分子磁界とフントの法則を“交換相互作用”という強磁性体内部の現象で量子力学的に説明したのです。

このように、物質の磁性の挙動や磁石のパフォーマンスは原子構造の理論的な解明により、電子の量子力学的な配置によるスピン磁気モーメントと交換相互作用がその主な根源であることがわかったのです。

永久磁石(マグネット)の歴史と磁気科学の発展41
パウリの排他律による電子配置例

強磁性の根源

常温で強磁性を示す元素は、Fe、Co、Niに限られますが、いずれの元素も3d電子殻の収容可能電子数に達する前に4s殻に電子が入っています。フントの法則により、スピンの向きが逆符号同士の3d電子対は1組であり、残りの4個の3d電子は孤立した不対電子となります。この表にはありませんが、同様な配置関係が、希土類元素の4f殻電子と5s-6s殻電子の間にあり、不対電子が存在します。この3d、4f不対電子を磁性電子とも呼びます。この磁性電子はスピンの向きが同じで且つ孤立しているためスピン磁気モーメントが生じ、近隣原子との交換相互作用および外殻電子によってある程度保護されていることとのバランスにより強磁性を生み出しています。(次図参照)

永久磁石(マグネット)の歴史と磁気科学の発展42
水素原子の構造モデル
永久磁石(マグネット)の歴史と磁気科学の発展43
鉄原子の構造とフントの法則による電子配置モデル

磁気モーメントと希土類磁石の秘密

一般には原子の磁気モーメントといえば、(1)原子核の核磁気モーメント、(2)電子の軌道磁気モーメント、(3)電子のスピン磁気モーメントの総和のことです。

但し、この中ではほとんどの場合スピン磁気モーメントが最も大きく、磁石の場合の磁気モーメントといえばスピン磁気モーメントを指すことが多いようです。

電子が回転(スピン)すると電流の磁気作用と同じく周囲に磁場が発生します。しかし多くの原子は回転が互いに逆向きの電子対(ペア)となっているために、磁場は打ち消されてしまいます。ところが鉄やコバルトの遷移金属は最外殻の内側の3d電子軌道に不対電子があり、電子の回転による磁場が発生します。ネオジム、サマリウムのような希土類金属は4f軌道に不対電子がありますが、ガドリニウム(Gd)以外は室温では常磁性で、鉄やコバルトと化合物を作ると相互作用で磁気モーメントの方向がそろい強磁性を示すようになり、磁場を発生させます。したがって、ネオジム磁石(Nd-Fe-B)やサマコバ磁石(Sm-Co)は大きな自発磁化を持つのです。また、鉄やコバルトだけでは外部磁場が取り除かれると、次ページで説明するように、エネルギーを最少にするために磁壁移動が起きて外部には磁力線がでてきません。しかし、Nd2Fe14Bのような化合物では磁壁移動を妨げる微細な結晶構造による大きな保磁力を有し、大きな磁化と異方性エネルギー、原子間の交換相互作用などの素晴らしい複合効果で、着磁すると強力な磁場を発生するのです。