■ 西暦1986年~2007年:高温超電導体の出現と永久磁石への可能性
電気抵抗ゼロやマイスナー効果、ジョセフソン効果(1962年ケンブリッジ大学の大学院生であったジョセフソンが発表)を利用するにしても、永久磁石として利用するにしても、転移温度Tc(キュリー温度ではない)が液体ヘリウムの4.2Kあるいはそれに近い温度に冷却しないと実用に供さないことは明白でした。単物質で最も転移温度が高いニオブ(Nb)が9.2Kであり、クンツラーの発見したNb3Snも17K程度で液体ヘリウムに近い温度まで冷却する必要があったのです。
1986年スイスIBM社のベドノルツとミューラーがLa-Ba-Cu-O系で30Kの超伝導材料を発見してから、酸化物超伝導材料が一躍注目され始め、その後種々の酸化物超伝導体が発表されてきました。
その後、YBCO(YBa2Cu3O7-δ)(Tc~93K)やBSCCO(Bi2Sr2Ca2Cu3O10)(Tc~109K)といった銅酸化物高温超伝導体が次々に発表され、液体窒素温度77K(-196℃)で十分超伝導になる物質が生まれたのです。現在では、Tcが160K(-113℃)の物質も発見されて、温度という障壁はかなり低くなってきていますが、実用上は依然としてその壁は厚く、特に永久磁石はバルクで利用されるために特殊用途以外はまだ難しい状況です。実用的な永久磁石超伝導体の条件は、
(1)室温以上の転移温度Tcを有する物質であること
(2)第二種超伝導体であり、大きな値の上部臨界磁場Hc2を有すること
(3)資源的な制約が少ないこと
などの厳しい条件をクリアすることが必要となります。
どうやら、超伝導体の永久磁石は有望とはいうものの、画期的な高温超伝導物質の出現を待たざるを得ないのが現実のようです。なお現在、超伝導磁石といわれているものは、Nb3Snなどの超伝導線材を使った電磁石のことで、また人間を浮かせるような実験は、ネオジム磁石と窒素温度に冷却した超伝導酸化物体のマイスナー効果による反発力を利用したもので、“超伝導永久磁石”とはいえません。