今回は技術的な情報から少し離れて、磁石の変遷についてのお話をしましょう。
大昔の磁石はどのようなモノだった?
強力な磁石が現れた背景と過程は?
(1)大昔の永久磁石
西欧では紀元前600年頃、ギリシアのマグネシア地方に天然の磁鉄鉱が産出し、この鉱石が羊飼いの鉄の杖や、他の鉄製品を引きつけたりしたので、地名にちなんで”マグネット”と呼ばれるようになったそうです。古文書によると、同様に中国でもこのような鉱石が当時の慈州にあり、且つ、母親の二つの乳房のように、慈愛深く乳児をひきつけることから慈石と書かれていました。二つの乳房はもちろんN極、S極のことです。
さらに中国の春秋戦国時代には指南車という方位を示す応用製品が作られ、実用化していたようです。
その後磁石は人工的に作られるようになり、火薬、紙と並ぶ中国三大発明の羅針盤の登場となりました。
西欧の方位磁石はこの羅針盤の技術を、マルコポーロが持ち帰り実用化したもののようです。
日本では奈良時代の「続日本紀」に、近江の国で磁鉄鉱が発見され、天皇に献上されたことが記述されていますが、その後の時代は外国からの輸入による磁鉄鉱を使い、方位磁石(羅針盤)を作っていました。
なお、磁鉄鉱はふつう磁力を帯びていませんが、雷により地表に大電流が流れ、その磁場で、いわゆる”着磁”されたものと考えられています。
(2)近代の永久磁石
磁石=羅針盤という時代が長く続き、その磁界や吸着力を工業的に応用できる強力な永久磁石が登場したのは、ようやく20世紀に入ってからになります。下図に示すように、近代磁石の発展の歴史には、日本人や日本の技術が大きな貢献をしてきていることが分かります。
特に、アルニコ磁石の原点となった本多光太郎博士のKS鋼、NKS鋼、三島博士のMK鋼また、フェライト磁石の基礎を作った武井、加藤両博士のOP磁石は、日本の金属材料技術、磁性材料技術の高さを世界的に示したものです。また、現在の最高峰であるネオジム磁石も、このような高い技術力を背景にした日本で生まれ、コンピュータ、電子機器、運搬機器、各種モータ等の小型・高性能化に計り知れない貢献をしています。
今後どのような新しい永久磁石が発明、実用化されるかわかりませんが、
- 100MGOeに近い高性能磁石(現在のネオジム磁石の2倍の磁力)
- 希少金属を使わない、鉄主体の高性能磁石
- 高性能ポリマー磁石
- 薄膜磁石、分子磁石、液体磁石、透明磁石
等々世界中で様々な研究が進んでいますので、いずれまたあっと驚くような磁石が出現するかもしれません。
また、磁石の応用もまだまだ無限大に考えられます。